夏の暑い時期は国内でのイチゴの生産が難しい。このためとくにケーキ用のイチゴが不足して、多くは海外から輸入している。品種や栽培技術が進歩しても、夏の暑さは難敵だ。三陸沿岸の夏の涼しさを利用して夏イチゴを生産できたら、復興にも大きな力となるだろう。宮古の夏の気温(7,8月の平年値)は、亘理(東北一のイチゴ産地)よりも2℃、盛岡よりも1.5℃、札幌よりも0.5℃低い。
ところが岩手三陸沿岸には、イチゴの産地がないから、栽培の経験者がほとんどいない。そこで、1)四季成り性イチゴ品種と、2)もみ殻培地を利用して、初心者でも簡単に始められる栽培法を開発した。普通のイチゴ(一季成り)は短日植物だから、日が長くなると花が咲かない。夏にイチゴの花を咲かせるには、短日処理などの技術が必要だ。一方、四季成り性イチゴには、日が長くても花を咲かせる性質がある。品質や収量で一季成り品種にやや劣るものの、作りやすいという長所がある。詳しくはこちらを参照されたい。
初心者向けに四季成り性品種と組み合わせた技術がもみ殻培地だ。もみ殻培地は、もみ殻が70~75%、土が25~30%、炭の粉が3%、肥効調節型の被覆肥料からなる培地だ。当初は養液栽培のロックウールの代替として開発され、その後、野菜や花の育苗培土として普及した。詳しくはこちらを参照されたい。
この培地には、1)水はけが良いので、水のやり過ぎで根腐れを起こす心配がない、2)誰が管理してもそれなりに栽培できる(満点は取れないが合格点はとれる)、3)同じ組成で、いろいろな品目に広く使用できる、などの特徴がある。この特長を活かして、イチゴの高設栽培の培地に利用したところ、栽培経験が全くない学生でもそれなりに収穫できた。しかもイチゴの高設栽培に広く使用されるバークに比べて、夏の高温期でも根がしっかり発達した。
さらにベッド本体を不織布で作ると、表面から水が蒸発するときに気化熱を奪い、地温が低下する。都合の良いことに、気化冷却の効果は温度が高いときほど大きいから、晴天日の最高地温は下がるが、最低地温には大きな違いがない。曇天や雨天の日も地温はあまり下がらない。暑いときだけ涼しくするというわけだ。先ほど三陸は夏の気温が低いと言ったがこれは30年間の平年値の話。三陸沿岸は年々の気温変動が国内で最も大きな地域の一つだ。やませが吹き込む寒い夏と、最高気温が35℃を超える暑い夏がある。暑さ対策を忘れてはならない。
ベッドの幅は15cm、培地の量は1mあたりに15~16リットル。肥効調節型肥料(エコロング)の70日タイプと180日タイプを1m当たり各75g施用する。培地を半分ほどベッドに入れて、肥料を撒き、そこに1mあたり8株のイチゴを植え付ける。4月末に定植し、あとは水をやるだけで夏にイチゴを収穫できる。水やりもタイマーと風呂ポンプを使えば、ほぼ自動で管理できる。当初は1時間に3分の灌水を1日に8回、イチゴが大きくなって培地が乾いてきたら、1時間に4分~5分に灌水量を増やす。
不織布の気化冷却の効果は、試験に供した2品種とも現れたが、とくに暑さに弱いとされる品種「なつあかり」で顕著であった。「なつあかり」では、気化冷却が起こらないプラスチック製のコンテナに比べて、収量が3倍近く増加した。
2014年の春から雫石町のTさんと田野畑村のSさんが、この装置を導入して、初めての夏どりイチゴ栽培に取り組んでいます。Tさんは脱サラの新規就農、Sさんは菌床シイタケからの転作です。Tさんのなつあかりは雫石、滝沢、盛岡の洋菓子店で好評を得ています。また町内の産直に出荷すると瞬く間に売り切れの状況です。Sさんは、すずあかねを農協経由で首都圏に出荷しています。2014年の秋から、大槌町のAさんが冬春どりイチゴにもみ殻培地を使い始めました。春に紅ほっぺの収穫が始まりましたが、もみ殻培地のイチゴの味は、天候に左右されにくいと言っています。2015年の春から、八戸市のベテランイチゴ農家Kさんも、夏イチゴのベッドを全面的にもみ殻培地に換えました。安価で作りやすく味が良いのが理由です。